グランヴィル 花の幻想より「花の舞踏会」
フランスの挿絵画家 J. J. グランヴィルによる「花の幻想」からの一枚です。花たちが、人の姿になって人間の世界に出たいと花の妖精に訴えました。そうして、人間が花々に与えた性格が、果たして真実なのか自分たちで確かめたいと言うのです。このような次第で、擬人化された花たちとともに始まった物語も、そろそろ終幕を迎えます。
人の世界で様々な運命を味わった花たちは、西風に優しく揺すられる花の姿が恋しくなってきました。そんな思いで妖精の庭に戻ってきた花たちは、再会を喜び合って舞踏会を開きます。ホタルブクロやチドリソウ、スズランなどが楽しそうに踊りますが、後ろのアスターたちは浮かぬ顔。それもそのはず、人の姿はお終いにして欲しいと言う花たちの願いを、花の妖精は快く聞いてくれるでしょうか。そんな喜びと不安が相半ばする花たちの姿を、フィナーレにふさわしい素晴らしい色彩と造形、豊かな表情で見事に描いています。
浮かぬ顔の中心にいるのはキクですね。18世紀に中国からもたらされたキクは長らく人気がなく、この本の出版から10数年後にやっと園芸家の間でブレイクするのですが、グランヴィルはいち早く、憂いを帯びてすっと高貴な立ち姿をここに記しています。
先ほど挿絵画家と申しましたが、この花の幻想はグランヴィルの絵が先にあり、友人タクシル・ドロールが後から物語を添えたのです。このことからも、彼の絵がいかに物語性溢れるものであるかがわかります。40代半ばで亡くなったグランヴィルの晩年は決して幸せなものではなく、もとは世相の辛辣な風刺を得意とした彼の画風は次第に幻想的なものになっていきました。辛い人生の中で花を丁寧に観察し、そこに現実を離れた幻を見ていたのかもしれません。本書は彼が死去した1847年にパリで出版され、遺作となりました。
より繊細な線を求めて硬い鋼に彫った鋼版に手彩色を施しています。版画、手彩色の技術でもピークにある作品のひとつだと思います。
サイズは約17.2×27.8センチです。
古いものですので切れや傷み、シミや汚れがあります。