フランスの挿絵画家 J. J. グランヴィルによる「花の幻想」からの一枚です。花たちが、人の姿になって人間の世界に出たいと花の妖精に訴えました。そうして、人間が花々に与えた性格が、果たして真実なのか自分たちで確かめたいと言うのです。花たちが見事に擬人化された絵とともに物語が始まります。
サボテンが語るのは、南国から寒冷なヨーロッパに連れてこられた女性のお話しです。南の国で生まれた彼女は、さる男性についてヨーロッパまで来てしまいます。そして、どんなに立派なお屋敷でも、彼女が言うところの「まがいものの暑さ」で具合を悪くし、暖かくほのぼのとした気候を懐かしみ、暖炉の飾りの役にうんざりしたと言うのです。
くっきりとした顔立ちや強い意志を示す眼差し、堂々とした存在感のある立ち姿、しかしその背後にあるのは綺麗なストーブです。隠しきれない情熱と望郷の思いが溢れ出るような南国の女性をサボテンに託して見事に描き切った一枚です。
先ほど挿絵画家と申しましたが、この花の幻想はグランヴィルの絵が先にあり、友人タクシル・ドロールが後から物語を添えたのです。このことからも、彼の絵がいかに物語性溢れるものであるかがわかります。40代半ばで亡くなったグランヴィルの晩年は決して幸せなものではなく、もとは世相の辛辣な風刺を得意とした彼の画風は次第に幻想的なものになっていきました。辛い人生の中で花を丁寧に観察し、そこに現実を離れた幻を見ていたのかもしれません。本書は彼が死去した1847年にパリで出版され、遺作となりました。

より繊細な線を求めて硬い鋼に彫った鋼版に手彩色を施しています。版画、手彩色の技術でもピークにある作品のひとつだと思います。
サイズは約17.3×28.1センチです。
古いものですので切れや傷み、シミや汚れがあります。