フランスの挿絵画家 J. J. グランヴィルによる「花の幻想」からの一枚です。花たちが、人の姿になって人間の世界に出たいと花の妖精に訴えました。そうして、人間が花々に与えた性格が、果たして真実なのか自分たちで確かめたいと言うのです。花たちが見事に擬人化された絵とともに物語が始まります。
ここに描かれているのは、ザクロの生まれ変わりのメキシコの踊り子グルナディーリャです。彼女は処刑されようとする先住民の首長ツミルコの命を助けた後、スペイン行きの船に乗りますが、その船は航海の途中で難破し、彼女の遺体はスペインの海岸に流れ着きます。その遺体は花の妖精に引き取られ、人々はそこにザクロを植えるのでした。ザクロとは、その花と実が今も人の目を楽しませる踊り子なのです。
先ほど挿絵画家と申しましたが、この花の幻想はグランヴィルの絵が先にあり、それに触発された友人タクシル・ドロールが後から物語をそえたのです。このことからも、彼の絵がいかに物語性溢れるものであるかがわかります。40代半ばで亡くなったグランヴィルの晩年は決して幸せなものではなく、もとは世相の辛辣な風刺を得意とした彼の画風は次第に幻想的なものになっていきました。辛い人生の中で花を丁寧に観察し、そこに現実を離れた幻を見ていたのかもしれません。本書は彼が死去した1847年にパリで出版され、遺作となりました。

より繊細な線を求めて硬い鋼に彫った鋼版に手彩色を施しています。版画、手彩色の技術でもピークにある作品のひとつだと思います。
サイズは約17.5×28センチです。
古いものですので切れや傷み、シミや汚れがあります。