深紅のベルベットが美しい祈祷書です。そこに施された貝は綺麗に磨かれ、まるで魔法の鏡のように虹色の光を浮かび上がらせています。うねるように伸び、花を咲かせる植物の装飾は、古色が金属の余計な煌めきを削ぎ落として陰影を深め、しっとりとよい肌触りになり、左上の十字架、下のフルール・ド・リスも穏やかな輝きを残して神々しくイエスと聖母マリアを象徴しているようです。小口の金も美しく残り、留め金にも細かい彫りのある手の込んだ装丁です。
表紙を開けると、聖心を現すイエスの姿のとても雰囲気のある図版が、それを祝福する言葉とともに置かれ、金色のインクがよくのった色彩の扉ページもあります。さらに、中に3枚のホーリーカードが挟み込まれていました。1枚はレース状の切り紙細工に破損がありますが、別の1枚の裏面にはとても美しい筆記体で文字が記されています。こちらはかつての持ち主の気配を感じるお品として、そのままにしてお届けします。

20世紀の初めの頃のドイツ製と思われます。
サイズは約8×11.3センチ、厚さが約2.8センチです。
背表紙の金属板は欠損しています。また、古いものですので内外に傷、汚れがあります。