家族のデスカード
この2枚のデスカードと1枚の写真はセットで手に入れました。これはアメリカ合衆国、フィラデルフィアのワイン家の物語です。登場人物は父のヘンリー、名前が不明の母、そしてエドワード、アメリア、アンナ・マリー、セオドア、サミュエル、そしてもうひとりベシーという子どもたちです。デスカードの1枚はこのベシーのもので、彼女は1889年に6歳で亡くなっています。
さて、写真に目を移すと、裏にまずヘンリー・ワインの名前があり、その右の記号は十字架のようです。写真に写っている父ヘンリー氏は、その後、亡くなったのでしょう。デスカードの2枚目は彼のもので、1892年に66歳で没したとの記載があります。
その下に "children family"「子ども達 家族」との記載があり、上記、5人の名前があります。ベシーの名前がありませんので、この写真はベシーの死後、1889年の後半から1892年初めの頃までに撮影されたものと推測されます。
次に、子どもたちは年長の子から順に記載されているとして名前を当てはめて行くと、下のふたり、父が肩に手をかけているセオドアは女の子の服装のようですし、母に抱かれている末の幼児「サミュエル」は明らかにスカートを履いて女の子の姿をしています。セオドアは男性名ですし、サミュエルはユダヤの預言者サムエルからとった男性名ですが、これらの服装は邪眼から子どもを守るためと思われます。当時、魔女や動物、神官などが男子の乳幼児を邪視することでかける呪いから守るためには、女性を象徴するものが有効と考えられていたのです。その男子への魔除けが実際に行われている様子が、ここに記録されています。
さて、物語の最後の謎、母の名前が不明なのはなぜでしょう。これも推測になるのですが、この写真、そして多分、デスカードもその母が持っていたものだからではないでしょうか。母は記録として自分以外の家族の名を書き留めたのでしょう。そして、母のデスカードがないのは、次にデスカードの主人公になったのが彼女自身だったからです。
こうして、19世紀の終わり、フィラデルフィアのワイン家にまつわる物語は幕を閉じました。ここから先は、みなさん自身が時空を超えて推理と想像の旅をなさってください。その旅へのチケットはここにあります。
1889年から1892年のアメリカ、フィラデルフィアで製作されました。デスカードはフューネラルホーリーカードとも呼ばれ、お葬式で配られるカードです。この黒い大型のスタイルは、当時、アメリカ合衆国でよく使用されたものです。
サイズは、デスカードが約10.8×16.5センチ、写真が約5.2×10センチです。
古いものですので、それぞれに傷、汚れがあります。