うつろう青色の義眼
軽やかな青が少しくすんですっと彩度を落とした先には闇の尖兵が潜んでいる。そんな複雑で美しい青の変貌を目のあたりにする義眼です。多くの義眼は裏があり、二重のガラスの中は中空になっているのですが、こちらは裏がなく一重のシングルと呼ばれるものです。そのために裏からも光が入りやすく、色彩が刻一刻と繊細に変化するのです。
透明なガラスの中に浮かんだ黒目の周りにくすんだ黄色が滲み出し、それが薄くなるとブルーグレー、青、白などの筋が渦を巻くように踊り、外縁はくすんだブルーグレーにさらに濃くなった影がさします。
このように形容している間にも、わずかな角度や持ち方の変化で景色も微妙に変化し続け、黒目の周りの黄色の中に皆既日食のコロナのような金色の環が見える瞬間があったり、全体が黒みを帯びた深い青にしんと静まりかえっていたりと、様々な姿を見せています。これが透き通ったガラスの中で繰り広げられるのですから、全てがしっとりとみずみずしい光を含み、これ以上は申し上げる言葉が追いつかないほどです。
ただもうひとつ、明るい場所で破損に十分注意しながら両端を指でつまんで光に晒すようにして見ると、くすんだ青とくすんだ黄色がぼんやりと光を通す、なんだか紙風船を光に透かしたような少し懐かしいような色彩のコラボレーションを見ることができます。
表面に少し傷がありますが、シングル義眼の魅力はお楽しみいただけると思います。
こちらのガラス義眼はドイツ、チューリンゲン州、ラウシャで製作されました。ラウシャは古くから優れたガラス工芸の町でしたが、19世紀にイタリアから義眼製作の技術が伝わり、19世紀の末までにはガラス義眼で有名になりました。今でもその技術を使って、カスタムのドールアイなどを製作しているそうです。
1920年代の製作とのことですが、実際にはもう少し古いかもしれません。
画像の黒い箱の1辺が約3.7センチです。お品物のサイズの参考にしてください。