華やかな金メッキの薄く小さなケースに樹脂の板が2枚、はてこれは何でしょう。これは舞踏会の手帳と言われ、舞踏会で若い女性達が持っていた文具、カルネ・ド・バルです。
早春のロンドンのタウンハウスには、国中のお屋敷から独身の子弟を連れた貴族たちが集まってきます。さあ、これから夏までの間、社交界のシーズンの始まりです。目的は言わずと知れた花嫁、花婿探しです。となると数多の舞踏会でどなたと踊ったか、どなたとお会いしたか、これは極めて大切なことですが、覚えているだけでも一苦労。そこでこのカルネ・ド・バルがお役に立つというわけです。中に収納されている板は、舞踏会で出会った人、あるいは踊った人の名前を書きとめたり、気に入った曲をメモすることなどに使用されていました。このお品にも何か走り書きした跡がそのまま残っています。
若い女性達のわくわくと気恥ずかしさと、でも少し大胆な心の内を象徴するような、明るい金と繊細な模様の装飾が見事です。
脇にペンシルを収納するところがあり、元はこのケースに合う長さと太さのペンシルがあったのでしょうが、現在は失われているため、現行品ではあり短めではありますが太さの丁度よい鉛筆をおつけしました。
また、ぴったりの古い懐中時計用の鎖がありましたので、これもおつけします。カルネ・ド・バルとほぼ同時代のものですので、質感がよく合うと思います。

19世紀末から20世紀初めの頃までのイギリス製です。サイズは、板を収納した状態で全体が約3.3×5.8センチで、懐中時計の鎖は長さが約31センチです。
どちらも古いものですので汚れや傷があります。