聖母マリアを賛美し、祈りを捧げるための祈祷書です。艶のある革装に落ち着いた金の型押しがとても優しく上品な雰囲気を漂わせます。留め具は銀と思われますが、古色を帯びた黒にしっとりとした光沢が曲線を描き、静謐な影と光が見事な対比を見せています。隅々まで聖母マリアに相応しく設えられた装丁を開くと、天使に取り巻かれて両手を広げ、天を見上げるマリア様の銅版画が現れます。装丁からこの図版への一連の体験で、すでにこの祈祷書に込められた想いが伝わってくるようです。
留め具の裏にはかつての持ち主と思われる人のイニシャルが刻まれています。当時、製本は出版とは別の工房が担当することも多く、この祈祷書も、その持ち主が聖母マリアへの想いを込めて誂えたのでしょう。
もうひとつ、164ページと165ページに花のしおりと押し花が挟み込まれていました。いつ、どのような経緯で挟まれたものか、今となっては知る由もありませんが、アストランティアやヒースなどが未だ色を留めており、ここにもかつての持ち主だった方の心の欠片が残っているように感じられます。

用紙の様子などからかなり古い書籍と思われます。著者のJ.P. シルバートは1777年から1844年の人で、本書の初版は1827年、ウイーンで出版されていますが、こちらはドイツ、ロイトリンゲンの書店で販売されております。そのことから、売り主は1830年代頃の出版、装丁ではないかと推測していますが、私も同意いたします。表記はドイツ語です。
サイズは約9.5×17センチ、厚さが約2.5センチです。
古いものですので擦れや傷み、しみや汚れがありますが、留め金はきちんと機能します。