インク壺と真珠貝のディップペンのセット
19世紀、ヴィクトリア朝のイギリス、その至る所にこのようなインク壺がありました。それはむっつりと無口なおじさんのように、静かに机の上にいたのです。でも、実はこのおじさん、お茶の時間なんかには、なかなか面白い話をしてくれるのです。お仕事の帰りにビールでも奢れば、もっと愛嬌たっぷりのおじさんに変身しますよ。これはそんなおじさんインク壺です。質素で何だか取りつく島もない佇まいなのですが、よく見ると何とも言えない可愛らしさがありますよ。
合わせたディップペンは、件のおじさんには普段は全く縁のないお嬢様です。真珠貝を細く、美しく磨き、虹色の光沢をまとった華奢なフォルム、ペン先を取り付ける金属の部分にも細やかな浮き彫りが施され、取り付けられたペン先ものちの万年筆に使用されたのと同じ金を用いたもので、事務員さんたちが使う鉄のペン先とは違うのです。ただ、それだけにハードな使用には全く不向きでしたが、ひたすらにエレガントな品でした。
階下の事務室に若い女性が現れると、そこだけ特別な照明でも当てたかのように見えた。
「あっ、これはお嬢様、御用でしたらこちらから参りましたのに。」
「いいのよ。急ぎの手紙を書くからちょっとそのインク壺を貸して。」
まあ、こんな感じの取り合わせなのです。何だか面白い物語が展開しそうではありませんか。この続きはどうぞ皆さんでいかようにも考えてお楽しみください。この釣り合いのとれないカップルがお供させていただきます。
インク壺、ディップペンともに19世紀後半から末のイギリス製です。ペン先だけはアメリカ合衆国製かもしれません。
サイズは、インク壺の直径が最大約7.6センチ、高さが約4.5センチで、ディップペンはペン先も含めた長さが約12.6センチです。
ディップペンの真珠貝の先端に小さな欠けの跡があり、ペン先は実用できるかどうかテストはしておりません。また、両者とも古いものですので傷、汚れがあります。