ハレー彗星のポストカードと月のステレオグラム
まだ人類が宇宙空間に出るなど夢物語であった時代、それどころかエンジンをつけた飛行機がやっと飛んだ頃でさえ、人々は天空の魅力や魔力に取り憑かれていたのです。そんなお品物を2点ご紹介しましょう。
19世紀は彗星の世紀でした。いくつもの彗星が観測され、世紀が変わって1910年、いよいよその最後を飾ったのがかの有名なハレー彗星です。この彗星が最接近した時に、地球は毒のある彗星の尾にすっぽりと入ってしまうと言われていました。地球滅亡の危機到来!というわけで、彗星の尾の毒を消すという「彗星薬」が売れたり、やけになって全財産を使い果たす人や自殺者までも出たとか。
そんな時代に作られたのが「この世の終わり」シリーズのポストカードです。ここにはハレー彗星が地球に最接近した時の狂騒劇が面白おかしく描かれています。
この一枚には仏自動車メーカーのクレメント・バイヤードが開発した飛行船が描かれ、「クレメント・バイヤード2号で月まで逃げよう」「一人2フラン」などという看板が掲げられています。お金を抱えてめかし込んだ上流階級の人々、化粧道具を落として慌てる婦人などが風刺的なタッチで描かれています。
隅々まで凝っていて、当時の雰囲気を知るものとしても面白いのですが、イラストレーションとしても可愛いですよね。当時の人々は大真面目だったのでしょうが、ファンタスティックでなんだか楽しそう!
合わせたステレオグラムは、月の写真を左右2台のカメラで撮影したもので、人間が両眼を使ってものを立体的に見る仕組みをそのまま応用したものです。この写真を見ていると月の画像がひとつにまとまって浮き上がって見えるというものなので、アナログ3Dとでも言えばよいのでしょう。ちなみに、元になった月の写真は、天体撮影の草分けと言われた L.M. ラザフォードが1864年に撮影したものです。
専用のステレオヴューワーという器具を使うとより簡単に立体像を楽しめるのですが、器具がなくても両眼でステレオグラムを見ながら写真を離したり近づけたりしていると、その人に合った距離で突然、月がブワッと浮き上がる瞬間があると思いますので、試して見てください。これは場所や時間に縛られず、いつでも好きな時にできる素敵なお月見ですね。あなただけのお月様をどうぞお楽しみください。
ポストカードは1910年代、フランス製で、サイズは約13.9×9センチです。ステレオグラムもほぼ同年代のアメリカ合衆国製で、サイズは約17×8.3センチです。
どちらも古いものですので、傷や折れ、汚れがあります。