素晴らしく美しい青の義眼です。しかし、そのブルーは鮮やかなだけでなく濃く深く、澄んだ氷晶ガラスの表面は涙に濡れたように瑞々しく、奥底には哀しみが潜んでいるように見えます。
黒目の周りに淡いオレンジがプロミネンスのように輝きますが、その光はすぐに黒みを帯びた青い渦にかき消されてしまいます。近づいて見ると、その渦の中にはブルーグレーを背景に濃淡の青、紫、黄、白など、はっとするような色彩の帯が踊っています。とても、とても美しい色彩の饗宴ですが、その渦を離れて見ると濃く美しい青に染まってしまうのです。別々の美しさを併せ持つような、ちょっと不思議な義眼です。
きっとこの義眼が内包する凍えた哀しみが熱も光も吸い取ってしまうのかもしれません。その奪われた光がそれぞれの色彩となってこのガラスの中で渦を巻いているのでしょう。しかし、ふと我に帰るとそこにはしんと静まりかえった哀しみの青の世界が広がっているばかりです。
あまりの美しさゆえに奪われた心も冷えて、そんな埒もない話を考えてしまいそうな義眼です。

こちらのガラス義眼はドイツ、チューリンゲン州、ラウシャで製作されました。ラウシャは古くから優れたガラス工芸の町でしたが、19世紀にイタリアから義眼製作の技術が伝わり、19世紀の末までにはガラス義眼で有名になりました。今でもその技術を使って、カスタムのドールアイなどを製作しているそうです。
1920年代の製作とのことですが、実際にはもう少し古いかもしれません。
画像の黒い箱の1辺が約3.7センチです。お品物のサイズの参考にしてください。