瑪瑙のブローチ
19世紀、ヴィクトリア朝の古い瑪瑙のブローチです。美しく磨かれた一枚の瑪瑙には幻想的な風景が浮かんでいます。それは意図したものではなく、全くの偶然に自然が生み出したものなのですが、しかし、そこには確かにここではないどこかが存在しているのです。
試しに少しその世界を覗いて見ましょう。
まずどちらが上かという問題があるのですが、半透明の空から淡い乳白の靄に光が差し込んで来ました。手前にはとても濃い雲が垂れ込め、左に高い塔か岩山がそそりたち、はるか遠くに幻のようなピラミッド型のものが見えます。あれは何でしょう。最後に目指すべきはあれなのでしょうか。そこに待っているものは希望か絶望か。今、曇ったレンズのような空から差し込む光は、果たして吉兆か凶兆か。
まだ旅の予告編ですが、この辺で私はこちら側に戻ることにします。
このように瑪瑙の中の世界を覗き込むことは、見ている人自身の心の中を覗き込むことなのかもしれません。少し怖い気もしますが、実は諸々を解き放ち、決められた未来から外れてアナザーワールドを発見する、夢と希望の冒険譚が待っているのかもしれないのですよ。
多分、天地が逆になると全然別の世界が現れますし、見る人によっても違う風景が広がることでしょう。あなた自身のアナザーワールドを密かに身につけているなんて、なんだかワクワクしませんか。
金属の枠は売り主の情報によるとピンチベックだそうです。これは19世紀、金の代用品として一時期大変人気があったのですが、工房が極めて閉鎖的だったためと、別の素材が生まれたために廃れてしまい、今では製法がわからなくなった金属です。本当にピンチベックかどうかを確かめることはできませんが、少しだけ艶を残して古色を帯びた質感は瑪瑙と本当によく合っています。不思議な瑪瑙には少し謎めいた金属が相応しいのかもしれませんね。
19世紀のイギリス製で、サイズは約3.3×2.5センチです。
瑪瑙の端に欠けがあり、枠にも歪みがあります。また、古いものですので傷、汚れがあります。