グランヴィル「花の幻想」
グランヴィルは19世紀の挿絵画家です。人を動物に変身させたりする風刺のきいた画風でしたが、実生活は決して幸福とは言えず、そのせいもあったのでしょうか、しだいに幻想的な絵の世界へと入り込んで行きます。こちらの "FLEURS ANIMEES"「花の幻想」はそうした彼の晩年に描かれた、花々に人の姿を見るという絵のシリーズです。描かれた絵に友人のタクシル・ドロールが物語を添えました。絵に物語を書くという、この挿絵と物語が逆転した逸話からも、彼の絵がいかに物語性に富んでいるかがわかります。そして、分冊配本が始まった1847年の3月に、グランヴィルは43歳の生涯を終えています。
その絵を見ていると、ただ花を擬人化するというだけではなく、花をよくよく観察しその生き方に思いを巡らしているグランヴィルの姿が浮かんで来るようです。辛い現実を逃れて花の精たちと心を通わせていたのでしょうか。
彼のニオイスミレの絵を見てからは、庭のニオイスミレの下には香炉を持つ少女たちがいるようにしか思えず、ザクロは悲しい運命の踊り子にしか見えなくなります。
彼の原画をより細い線を求めて硬い鋼に彫り、刷った後に職人たちが手で彩色を施してこの本の挿絵は生まれます。その頰の紅の差し方、身にまとう衣服の影のつけ方など、どこを見ても版画、手彩色の絶頂期を感じさせる美しさが溢れています。これまで一枚づつの絵をいくつかご紹介しましたが、その全てを納めた本は別格です。ページをめくるたびに滲み出て来る滋味を味わうような楽しみは、やはり本ならではのものです。
1847年にフランスで分冊配本が始まり、本来、2巻本で出版されたものを1巻にまとめて製本したものです。
サイズは約18.5×25.5センチ、厚さが約4.5センチです。
綴じがとれている絵があり、文字ページに破れがありますので、少しお買い得なお値段にしました。古いものですので、他にもシミや汚れ、傷などがあります。