肖像写真のブローチ
中央に男性、両脇に少女の写真をセットしたブローチです。この3人については全く情報がなく、セピア色のいかにも古めかしい写真の中で謎めいた表情を浮かべています。古色を帯びた金メッキの枠にシードパールを一粒、ピンクのもう一粒はガーネットかもしれません。このしつらえも何やら神秘的で、遠い過去に置き忘れられたものが、何故か今、私の手元にあるといった佇まいです。さて、こうなると遠くから聞こえてくる太鼓の音に誘われて時空を超えた旅に出る以外にはないようです。
ふたりの少女は髪に飾りをつけておめかしをして、男性は帽子をかぶった正装のようです。このブローチの製作は19世紀末から20世紀初頭のフランスと思われますので、当時、写真撮影は人生で何度もあることではなく、このような装いとシリアスな表情も頷けます。そうすると中央の男性が父で少女たちは彼の娘かもしれません。右が姉で左が妹でしょうか。彼女たちの初聖体拝領などの大切な出来事の記念に撮影し、ブローチにしたとも考えられますが、母に当たる人が見当たらないのでもっと不吉な出来事も頭をかすめます。このブローチは少女たちの母が持ち、父のブローチの中央には母の肖像写真があったのならよいなどと想像の翼は広がります。男性の帽子は、はっきりとは言えませんがピレネー山麓、バスク地方のもののようにも見えます。
いずれにしても、1900年頃、世紀の変わり目に生きた家族の遠い記憶を今に留める品なのでしょう。ブローチに下げられた小さなハートを売り主は「家族のハート」と呼んでいましたので、そのこともこの想いの裏付けとなっています。
19世紀末から20世紀初頭のフランス製で、サイズは約3.5×3センチです。
使用されているパールや石については買い付け時の情報により、その後、正式な鑑定はしておりません。ピンクの粒についてはガーネットかガラスと思われます。
古いものですので写真、台座ともに傷みや汚れがあります。