不思議な生物のような造形、大らかな花の意匠、複雑な色を思うがままに使った彩色。大胆でありながら見事な統一感を持って造られたこの花瓶は、一体、何を語ろうとしているのでしょうか。
上部の造形は何でしょう。角のようでもありますが、そこに花を活けたら蕾が割れて花があふれたようになるかもしれません。土を巧みに使って大きく中央に浮き彫りにした花には複雑な色彩の彩色が施され、さらに深く立体感を増しています。生命の躍動感を感じさせながら落ち着いた色調ですので、活けた生花をより引き立てることでしょう。
そして裏側には、なんと、表と同じ意匠の花が深緑の釉薬のみで浮き彫りになっています。巧みに陰影が施され、こちらは闇に浮かび上がる夜の花でしょうか。この神秘的な仕掛けに、作者はどんなメッセージを込めたのでしょう。
素晴らしい点はまだあります。周囲は深緑の釉薬ですが、そこに金色を擦りつけたようになっています。緑萌え出ずる中に射し込む陽光か、植物の精の到来を告げる光なのでしょうか。この金色を差す細工は他にも至る所に施されていて、全体がひとつにまとまった不思議な美しさの秘密はここにあるのかもしれません。光を浴びるとぐっとエレガントな佇まいになります。

20世紀前半までのフランス製で、サイズは高さが最大約26センチ、横幅の最大が約15センチです。彩色された花の浮き彫りに欠けを修復し、そこに後から彩色したと思われる跡がありますが、これもこのお品特有の景色とご理解ください。
古いものですので他にも傷、汚れがあります。