深い緑の讃美歌集
ベルベットはほとんど黒に近い深い深い緑、中央に十字架、四隅と留め金には透かし細工と素晴らしく手の込んだ装丁の讃美歌集です。背表紙には "GESANGBUCH"「讃美歌集」の文字板が掲げられ、すべての金属、小口の金に至るまで古色を帯びて陰影を深めた質感がゴシックの聖堂を思わせます。十字架の下の "C.W." はかつての持ち主のイニシャル、裏表紙の "1884" の銀文字はこの讃美歌集を装丁した年でしょう。当時は書籍の出版社とは別に製本の工房が独立した業種として存在し、印刷物を手に入れた人はそれを自分のオリジナルの装丁にしたのです。
表紙を見回しただけでもかつての持ち主の気配が漂ってきますが、表紙をめくった見返しには銀が角度によって虹色の光沢を帯びる箔押しで文字が記されていて、重ね重ねの手の入れようには驚かされます。
中身はプロイセンの讃美歌集です。プロイセンは現在のポーランド、リトアニアの辺りに始まるのですが、13世紀にドイツ騎士団によって領有され、その後、騎士団総長がルター派に改宗したことでプロテスタントの国家となりました。そのような訳で、この本の扉にもマルティン・ルターや17世紀、プロイセンの牧師で、ドイツで最も偉大な讃美歌作者と言われるパウル・ゲルハルトなどの名前が見られます。
1883年当時、プロイセンの首都はベルリンであったため、その街並みの図版がありますが、そこに描かれた人物は国王ヴィルヘルム1世ではないようで、ちょっと謎です。
このように降り積もった長い時間がこの眼で見て取れるような古いものを手にすると、そこからはるか昔の人たちの気配からその当時の空気まで滲み出して来るようです。どうぞこの讃美歌集を手に、時空を超えた旅へとお出かけください。
1883年、ベルリンにて出版、装丁はその翌年、1884年と推定されます。
サイズは約8.5×16.5センチ、厚さが約4センチです。
古いものですのでベルベットをはじめ表紙、中身ともに擦れや傷み、汚れがありますが、背表紙の文字板、留め金などはすべて残っております。