ケース入りの革手袋
柔らかい革製の手袋に手の込んだケース、クリップまでがセットになっています。
女性用のエレガントなタンの手袋は目を見張るほどにほっそりとしたシェイプです。かつてはこのように壊れるのではないかと思われるほど細く、そして繊細な手指をした方がいらっしゃったのでしょう。
『19世紀末のロンドン、早春の寒い朝に訪れた女性の依頼人が震えているのを見て火の近くの椅子を勧め、受け取った手袋は温めようと暖炉の前に置いた。その細い手首には新しいアザが認められた』
今の感覚で見るとアニメーションの世界でしか目にできないような、現実離れしたと言ってもよいバランスですが、これを前にするとこのような物語の一場面がとてもリアルに迫ってきて、そこに居合わせたかのようすら感じられます。
高貴な紫の内張のケースは、中身の厚さを蛇腹で調節するように工夫され、しっかりした持ち手がついています。旅行にも持っていけるように配慮されたものでしょう。
さて、骨を綺麗に磨いたと思われるクリップは何でしょう。当時の人が今よりも細く、あるいは小さかったとしても、このピッタリしたデザインでは脱いだ時にくるりと裏返しになったでしょう。その時に手袋の中にクリップを差し込み、つまんで引っ張ることで元に戻したもので、つまりは裏返った手袋を元に戻すための道具と推察されます。もしそうだとしたら、実際にとても便利だったでしょうね。
手袋、ケース、クリップに至るまで、とても素晴らしい仕上がりと雰囲気のセットですが、手袋はあまりにも細くて、小柄な女性でもはめることはできませんでした。したがって、現代では実用することは困難かと思われます。前述の通り、現在では実際には製作されない、物語の世界の品物のようなシェイプですので、オブジェとして、また時空を超えた空想旅行のお供としてお使いいただければ幸いです。
19世紀、ヴィクトリア朝のイギリス製です。サイズは手袋の長さが最大約26センチです。
古いものですので、手袋に穴があり、手袋、ケース、クリップともに擦れや傷み、汚れがあります。