厚く透明度の高いクリスタルガラスもさることながら、このお品は何と言っても周りに施された浮き彫りが見事です。左右には翼をつけた幼子たちが鳥籠から出した小鳥を愛で、草花を摘む様子が描かれ、背後には山羊の角を持ち髭を生やした顔が大きく立体的に置かれています。どれも表情豊かで、周囲の描写や装飾も細やかですが、それが古色を帯びて陰影を深め、さらに素晴らしい佇まいです。
山羊の角に髭の男はサテュロスでしょう。ギリシャ神話に登場する精霊で、悪戯好きで破壊的だが臆病で恥ずかしがり屋というわかったようなわからないような性格だったようです。豊穣の化身であり、パーンやディオニューソスなどとつるんで音曲を奏でながらニンフたちと戯れていました。
さてそうすると、幼子は悪戯坊主のエロースでしょうか。いつもの弓矢はどこかに忘れて遊んでいますが、自然の恵みを愛でている姿はサテュロスとともに愛と豊穣を謳歌しているように見えます。
外装だけでなく内装に目を向けるとこちらも素敵です。シルクは艶のある薔薇色が褪せ、繊維を露わにし、内張にのぞく古紙のフランス語は "Verglas" "Diana" ・・・これはなんだったのでしょう。時の流れだけが生み出すことのできる、意図せぬ退廃の美がここにあります。
ひとつ付け加えますと、ガラス義眼の飾り方でお悩みでしたらこのような古い宝石箱をお勧めします。幾千年の思いをたどる愛と豊穣の饗宴、かつての華やかさを偲ばせる忘れられた絹に光を宿す眼球が置かれる。どこか呪術的とさえ言える景色を、よろしければお手元にどうぞ。
画像の義眼は別売りですので、ご注意ください。

売り主の情報によると19世紀中頃のフランス製とのことです。
サイズは約7.7×7.3センチ、高さの最大が約6.8センチです。
古いものですので前述の色褪せなどの他に、傷、歪み、汚れがあります。