ほとんど黒に近い濃い紫のベルベット、表には十字架、裏表紙には聖杯を金属であしらった古い祈祷書で、1842年、ドイツ、バイエルン州、アウクスブルクでの出版、「天国への道とイエス・キリストの生涯の神秘」と題名があります。
何と言っても装丁の十字架と聖杯が大きな存在感を漂わせています。十字架は聖堂に掲げられたものを思わせる神々しい意匠で、裏の聖杯とともに長い年月を経た古色が深い陰影を刻み、不思議な立体感を生み出しています。留め金も健在で、手の込んだ植物モチーフの金属が長い使用で磨かれた滑りのある艶を帯び、こちらにも刻まれた深い陰影とともに素晴らしい質感です。白に濃いピンクのドットの枠なども装丁の中に見られますが、こちらも黒ずみや擦れが陰影となりより立体感を強め、まるで古い教会を訪れたような雰囲気です。降り積もる時間だけがこのようなお品を造ることができるのでしょう。
中の図版は十字架上のイエス・キリスト、フラクトゥールのフォントで印刷されたドイツ語もとても雰囲気があります。

1842年の出版で、装丁もほぼ同時代のものでしょう。出版の地アウクスブルクは4世紀からこの地域のキリスト教区の中心となっていました。
サイズは約11×17センチ、厚さが約2センチです。
古いものですので綴じに若干の切れが、背表紙の装飾がひとつ欠損しており、内外に傷やシミ、汚れがありますが、時代の割にはよい状態です。