レモンの香気の義眼
このように命名すると皆さん、高村光太郎の詩を連想なさることでしょう。彼は詩中で「トパアズいろの香気」と表現していますが、トパアズの色は様々なので、こちらは「レモンの香気」としました。ここでお伝えしたい色味は「その数滴の天のものなるレモンの汁」に近いものです。
透明度の高いガラスの中に封印された風景は豊かな光を含み、この上もなく瑞々しく、果実の実のような筋が複雑にうねります。さらに虹彩の外側にはうっすらと緑色の筋も見え、その外縁には薄く靄が立っています。そのせいで滴る果汁にわずかに緑を帯びた香気が立っているように感じられます。彼は「トパアズいろ」と言い、私は「わずかに緑を帯びた」と言い、しかし実際の香気に色はないのでしょうが、全てが幻想の世界ではそれも許されることなのでしょう。
「トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした」
(高村光太郎 智恵子抄 レモン哀歌 部分 引用も全て同作品より)
こちらのガラス義眼はドイツ、チューリンゲン州、ラウシャの "Theodor Müller-Hipper" の手によるもので、その商標にはチューリンゲン州の「最高品質認定」の記載があります。ラウシャは古くから優れたガラス工芸の町でしたが、19世紀にイタリアから義眼製作の技術が伝わり、19世紀の末までにはガラス義眼で有名になりました。今でもその技術を使って、カスタムのドールアイなどを製作しているそうです。
売り主によれば、両親が営んでいた眼鏡店に由来するものだそうで、少なくとも1945年以前の製作とのことですが、実際にはもう少し古いものと思われます。
画像の黒い箱の1辺が約3.7センチです。お品物のサイズの参考にしてください。
こちらの商品は店頭展示品のため、売り切れの場合がございます。また、古いもの性質上、汚れや傷もございます。どうぞご理解下さいませ。