素晴らしい4枚の石版画を中央に置いた、それぞれ3ヶ月ごとのカレンダーです。こちらは19世紀もいよいよ終わりを迎えた1900年のものですが、そのタイトルは "In Days of Old" で、直訳すれば「昔は」とでも申しましょうか。さて、なぜこのような題をつけたのかについては、4枚の版画を見てみましょう。
まず最初の絵は "The Cotillion"「コティヨン」こちらは18世紀中頃のフランスが起源の社交ダンスで、公式の舞踏会で踊られます。そして2枚目は "The Minuet"「メヌエット」こちらもさらに古いフランス起源の社交ダンスです。
このように、前半の2枚はかつてのフランス宮廷での舞踏会が、人々の表情も周囲の豪華な装飾も実に生き生きと描かれています。
さて、ここからはぐっとシリアスになっていきます。
3枚目 "The Queen of the Swords" は、イギリスの作家 Sir Walter Scott が1821年末に出版した作品 "The Pirate" のヒロイン "Minna Troil" のようです。Swords Danceというダンスの際、他の女性たちが怖気付く中、彼女は一人だけ誇り高く堂々と掲げられた剣の下を進む、その姿が描かれています。
そして最後の1枚、"The Old, Old Story" です。これは1866年、ロンドンで重病を患っていた福音伝道者 "Katherine Hankey" が書いた詩 "Tell Me the Old, Old story" による絵と思われます。
この詩は「昔、昔の物語を聞かせて。まだ見ぬ天上のこと、イエスの栄光、イエスの愛のお話を。幼子に聞かせるようにわかりやすく。寄る辺なく疲れ果てた私に。」というように始まり「急がないでゆっくりと話してね。・・・優しく話してね。・・・」云々と続くのです。この詩に触れて感動した人により、よく年、曲がつけられ人々に歌われるようになりました。この最後の絵も深く沈んだ様子の女性の傍で、男性が何か語りかけています。
他の絵も全てそうですが、描かれた人々の豊かな表情、奥の奥まで続いているような部屋の描写と背後の深い闇、それらの見事な表現が溢れんばかりの物語性を持って迫ってくるようです。
このカレンダーのアートワークは、1861年に生まれたイギリスの彫刻家で画家の "Henry Stephen Ludlow" の手によるもので、石版画やカレンダーの周辺に施されたアール・ヌーボーの装飾も素敵です。

1899年、ヴィクトリア朝もまもなく終焉を迎えようとするイギリス、ロンドンでの出版で、しっかりとした厚紙に石版を押し当てた跡もくっきりと残っています。綴じてあるリボンも当時のオリジナルのままです。
サイズは約27.5×37.5センチと存在感のある大判です。
古いものですのでシミ、汚れがありますが、実用品でもあるカレンダーとしては時代の割りにはよい状態です。