印章としては珍しい清廉な白い石は白瑪瑙でしょうか。中央に堂々たるアザミが、その上下にモットーが彫り込まれています。アザミはスコットランドをヴァイキングの侵略から救ったという逸話からスコットランドの花とされていますが、もちろんその他にも花言葉を持ち、象徴にもなっています。しかし、モットーの上部 "DINNA" はスコットランドの言葉で "DO NOT" の短縮形なのです。従ってこのモットーはスコットランドの言葉で記され、このアザミは "scottish thistle"「スコットランドのアザミ」なのだとわかります。ただ、モットー下部の最初の文字が少し不鮮明なこともあり、また200年近く前のスコットランドの言葉でもあるために該当する単語を探し当てることができませんでした。このお品を買い付けたイギリスのディーラーも同様のことを言っていました。アザミの花言葉には「触らないで」があり、アザミを用いた紋章にはラテン語で「我に牙を剥く者、何人といえど罰を免れる者無し」という一文が添えられることから、これらにまつわる語ではないかと想像しています。
持ち手は摩耗や磨かれた跡があり、地金が見えている箇所もありますが、元々は植物をモチーフにした凝った意匠に金を張り付けた金張りで、1830年頃のイギリス、ヴィクトリア朝の前、ジョージ朝末期のものと思われます。
白色の印章面、古色を帯びた持ち手ともに、きっぱりと独立独歩の道をゆく威厳と清々しさが感じられるお品です。

サイズは印章面が約1.2×1.5センチ、持ち手の高さが約2.6センチです。チェーンは現行品で長さが約43センチです。
古いものですので前述の摩耗の他に、傷、汚れがあります。