月男の紙挟みと星図
厚紙に布張り、金の箔押しでちょっと不気味なお月様の顔が描かれたこの書類挟みは、よろずを磨き艶を出すことを使命とした会社の宣伝用なのです。そう言えば、よく見ると後ろ側のお月様は困った顔、でも前に描かれたお月様はどうだと言わんばかりの得意顔です。
19世紀の家事労働者、いわゆるメイドさん達は日夜、家中を磨いていました。広間の床はお客様が映り込むほどに磨き、暖炉も玄関の石段さえ毎日磨いていたのです。その大半は膝をついての作業でしたので、若くして膝を傷めることは彼女達の職業病でした。そこで登場したのが彼女達の救世主 "CREME ECLIPSE"「エクリプスクリーム」です。これは早い話が艶出し用のワックスなのですが、なぜ "ECLIPSE" なのでしょう。エクリプスは日食、月食の食を指すのですが、月食で一度輝きを失った月も再び輝くのと同じように、このクリームを使えば再びピカピカというわけでしょうか。それで困ったお月も大威張りのお月に変身ということかもしれません。
表紙のお月様の下にある文字は「金属磨き」、さらに中を見ると「かまど磨き」から「素晴らしい輝きの磨粉」まで取り揃えられています。
届けられた書類をこれに挟んでご主人様にお渡しして、ふと中を見た旦那様が傍の奥様に「今度うちもこのワックスを使ってみるか。」などと言えばしめたもの。お月様もにっこりです。
ちょっと不気味で、でも愛嬌のあるお月様のデザインは、不吉で不思議だけれど面白い天体ショーだった19世紀の月食を彷彿とさせ、当時の人々の暮らしや雰囲気が少しだけ滲み出してくるようです。このような日用品は使って傷んだら捨てられてしまうものだったので、このような状態で残っていることは大変珍しいことと言えるでしょう。
今回は画像の撮影に使った7月の天球図もおまけにおつけします。
クリアファイルの代わりに、このしっかりした紙挟みを実用されてはいかがでしょう。A4の書類が丁度挟まる大きさで、A3を二つ折りして中央の紐で留めても良さそうです。歯止めの穴もありますので、紐をつけて吊るす事も出来ます。しっかりしておりますので、まだまだ現役で頑張れそうです。大切な書類や図版のコレクション、画板にもぴったりだと思います。
19世紀、フランス製。サイズは閉じた状態で約38×25センチです。
古いものですので傷み、汚れはありますが、当時の宣伝用日用品としてはよい状態です。