19世紀、ヴィクトリア朝の印章で、「キルンハウス」とは窯場を備えた家のことで、この場合の窯は調理やパン焼きではなく煉瓦や陶器などを焼く窯を指します。かつて窯はどこの家にでもあった訳ではなく、パンは領主様のお屋敷に行って焼く、煉瓦や陶器はキルンハウスでという風になっていたのでしょう。煉瓦造の家の脇に窯があり、その煙突からは煙が立ち昇っている。その側には釣瓶のついた井戸があって・・・この印章に彫られた風景は、昔々の懐かしいイギリスの記憶のひとつなのかも知れません。
今でもキルンハウスと呼ばれる建物は各所にあり、すでに煉瓦などは製造していないにしても一種の屋号のようになっているのでしょう。この印章もそういう館に住んでいた人が使い、手紙を受け取った人は封蝋に押された印を見て「あぁ、あのキルンハウスからだ。」などと思ったことも想像されます。
印章はほんのりと半透明の葡萄酒色で、素材はアメジストかガラスと思われますが、古い記憶を辿る旅にふさわしい柔らかい質感です。
持ち手は金色の彩色が古色を帯びて、未だに残る鈍い艶がとてもよい雰囲気です。

19世紀、イギリス製。サイズは印章面が直径約1.5センチ、持ち手の高さが約2.8センチです。チェーンは現行品で
長さが約43センチです。
古いものですので傷、汚れがあります。