真紅の祈祷書
19世紀、フランスの祈祷書です。そのバーガンディーのベルベットと金色の金属による美しい装丁には高貴なものすら感じさせます。扉は銅版に手彩色の精緻な仕上がりで、金色、菫色を始めとする鮮やかな色彩の美しさにも目を奪われます。さらに中にはラファエロの「小椅子の聖母」、「美しき女庭師(聖母子と幼き洗礼者ヨハネ)」から取られた銅版画の他、聖母マリア、聖フィロメナの銅版画が入っています。ラファエロのものはもとより、他の版画も表情豊かで、周囲の蔦模様の装飾も含めてとても手の込んだものになっています。
聖フィロメナは4世紀の初めにローマで殉教した少女ですが、19世紀初めにプリシラのカタコンベでその遺骨が発見され、ナポリの修道女が彼女の殉教の詳細を幻視してから広く崇敬されました。その幻視によると、ギリシャの地方総督の娘フィロメナは信仰篤く、キリスト教徒を迫害していたローマ皇帝の結婚の申し込みを拒絶したことで投獄され、様々な拷問にも天使の助けによって死ぬことはなく、最後は首をはねられて殉教しました。そのはねられた首は微笑みを浮かべ、後光が取り巻いていたと言われています。
19世紀初頭から崇敬の的となり、彼女が取り次いだとされる奇跡も起こったのですが、1961年、ローマ教皇庁はフィロメナの名を全ての典礼暦から削除するように命じ、その後発行されたローマ典礼書には彼女の名前はありません。
装丁の高貴さに誘われてページをめくると、その扉、銅版画の素晴らしさに、そして150年余りに渡り人々に崇敬の念を寄せられた後に消えた少女の不思議な物語に思わず心を奪われてしまう祈祷書です。
フランス、パリ製で、出版年の記載はありませんが、手彩色、銅版画から19世紀中頃から後半と推測されます。
サイズは約9×13センチ、厚さは約2.5センチです。
古いものですので若干の傷や汚れはありますが、時代の割りには大変よい状態です。