キリスト教におけるプロヴィデンスの目の意匠は「神の全能の目」を意味します。未だに艶を残す美しい革の装丁にその目が、三位一体を表す三角形や光背とともに浮き彫りになっています。こちらの書籍はドイツ、バイエルン州のデッゲンドルフで1830年に出版されたもので、フラクトゥールで書かれたドイツ語でとても読みにくいのですが、「聖なるイエス様」というような題名で、扉に「救世主」と記された図版があります。また見開きに手書きの文字も見られ、ひょっとしたらこの方が製本工房にこの装丁を発注した本人かもしれません。
19世紀、書籍の出版業者と製本業者はそれぞれ独立した別の職種であり、仮綴で出版されたものを自分の好みに製本することもあったのです。このイエス様についての内容と思われる書籍を装丁するにあたり、この人は「神の全能の目」を選んだのでしょう。専用の箱まで誂え、艶のある革に手の込んだ箔押し、金の小口も美しく、大変丁寧な装丁です。

サイズは約10.5×17センチ、厚さが約2.5センチです。
古いものですので内外に傷みやしみがあります。